ご挨拶
 
    道明では1652年の創業以来、三百年以上に渡って、上野池之端の地に根を張り、手染、手組の伝統的な技法による組紐づくりを生業としてまいりました。明治期以降には、歴史的な組紐技術の保存と継承を目的とし、日本各地の寺社仏閣、博物館に所蔵される様々な歴史的な組紐の調査研究と復元模造に取り組んでいます。

 組紐は飛鳥時代に大陸から伝わって以来、千年以上の長きに渡り日本で独自の発展を遂げてきた工芸です。長い歴史の中で、宮廷装束、武士の鎧、刀の下緒、そして着物の帯締と、様々な用途に用いられ、世界に類を見ない精巧な紐を組むための技術が確立されてきました。現代においても用いられる主要な組紐の技術は、はるか遠く紀元前の中央アジアにも見られます。様々な時代の趨勢を乗り越え、技術の改良や発展を経ながら、生きた技術として今に受け継がれているという事実こそ、組紐という技法自体が持つ生命力の強さの現れでもあります。
 
 職人の手仕事による組紐づくりは、生産と消費についての様々な価値基準が更新されつつある現代において、新たな生産の規範の一端を代表するものになりつつあります。組紐を組む作業は人間の呼吸から出る以上の炭素を排出しないローカーボンな製造過程であり、また人間が手を動かすためのカロリー以外に電力などのエネルギーを消費しません。そして一人の職人が一本づつ順番に組み上げていくため、素材の歩留まりや機械の製造効率を考慮する必要がなく適量を製造可能であり、過剰生産と廃棄のサイクルから全く縁遠い非常に持続可能性の高いものづくりです。

 伝統とは、時代とともに積み重なる地層のようなものかもしれません。これまでに積み重ねられた有職の技法を守り、その上に新たな層を積み重ね、古よりの変わることのない価値基準と、新たな時代の価値基準を併存させることで、日ごろご愛顧いただいております皆様にご満足いただけるような製品をこれからも製作し続けてまいります。


有職組紐道明 代表取締役 道明 葵一郎